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名古屋高等裁判所金沢支部 平成7年(ネ)99号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人本田秀雄は、各被控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載4の不動産について、平成二年一二月二一日遺留分に基づく減殺請求を原因とする持分九分の一の所有権移転登記手続をせよ。

三  控訴人本田秀雄は、各被控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載3、5ないし11の各不動産について、平成二年一二月二一日遺留分に基づく減殺請求を原因とする持分一万分の一四八の所有権移転登記手続をせよ。

四  控訴人本田慎一は、各被控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載3、5ないし11の各不動産について、平成二年一二月二一日遺留分に基づく減殺請求を原因とする持分一万分の二九六の所有権移転登記手続をせよ。

五  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、当事者双方の主張として次のとおり付加する他、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」記載と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目表二行目「争いのない事実」とあるのを「争いのない事実等」と、同末行「同錢谷久能」とあるのを「同錢谷久〈省略〉」と、同裏三行目「同大上千恵子」とあるのを「大上千恵子」と各改め、同六枚目表三行目「被相続人は、」の次に「昭和五一年八月六日付け公正証書をもつて」と付加し、同七行目に「平成二年一二月一九日」とあるのを「平成二年一二月二一日到達の書面をもって」と改める。

一  控訴人らの主張

相続開始時における被相続人の債務額は一億三九二二万三五九九円(あるいは少なくとも八九五四万円)であった。これに対し、遺留分算定の基礎となる財産の価額の合計は七七〇〇万三〇〇〇円であるから、被相続人は明らかに債務超過であり、被控訴人らに遺留分はない。

二  被控訴人らの主張

控訴人らの主張は争う。控訴人ら主張の被相続人の債務は、いずれも主債務者を控訴人秀雄とする連帯保証債務であるから、このような場合には、遺留分の算定に当たって右連帯保証債務の額を財産の価額から控除すべきではない。

第三  当裁判所の判断

一  遺留分算定の基礎となる財産の範囲について

当裁判所も本件遺留分算定の基礎となる財産は、本件物件1ないし11であると判断するが、その理由は、次に付加、訂正する他、原判決六枚目裏八行目冒頭から一〇枚目表四行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目初行に「算入される。」とある次に「まず、本件物件4は、前記被相続人の公正証書遺言(乙三〇)によって控訴人秀雄が被相続人の死亡により取得した財産であり、被相続人が相続開始時に有した財産として遺留分算定の基礎となる財産の範囲に含まれることは明らかである。」と改める。

2  原判決七枚目表四行目「争いのない事実及び証拠」とあるのを「争いのない事実等及び証拠(乙一〇、原審控訴人本人本田秀雄、原審・当審控訴人本人本田慎一、原審被控訴人本田秀治、同本田良夫、同新井信子)並びに弁論の全趣旨」と改める。

3  原判決七枚目裏一〇行目「またそれまで」から同八枚目表二行目「行われたものであること、」までを「右贈与はいずれも本田家の財産を分散させたくないという菊五郎と控訴人秀雄の強い意思のもとに行われた一連のものであって、控訴人秀雄の行ってきた菊五郎の扶養、債務の整理、家族への援助等に対する対価として評価すべきものではなかったこと、」と改める。

4  原判決八枚目表五行目「こと、」から同六行目「取得した」までを削除する。

5  原判決八枚目表末行「すべきものであるところ、」の次に「菊五郎は昭和五二年一一月一二日時点で満七七歳に達する高齢であり、」と付加する。

6  原判決九枚目裏三行目「同錢谷久能」とあるのを「同錢谷久〈省略〉」と改める。

二  遺留分算定の基礎となる財産の評価について

1  原審における鑑定結果によれば、本件物件1ないし11の相続開始時の価額は、別紙一覧表のA欄記載とおりであり、その合計額は七七〇〇万三〇〇〇円となることが認められる。

2  証拠(甲一、二)によれば、本件物件1及び2には、昭和五一年一一月一二日の本件贈与後に、昭和六一年一一月一七日、極度額五〇〇〇万円、債務者控訴人秀雄とする根抵当権が設定され、その旨の登記がされていることが認められるが、右の根抵当権については、贈与後に受贈者によって設定されたものであり、受贈者の行為によって目的財産の価格が減少した場合と同視できるから、民法一〇四四条、九〇四条の注意に照らして、もともと根抵当権の設定がなかったものとして評価すべきである。

3(一)  次に、証拠(甲三ないし一一)によれば、本件物件3、5ないし11には、本件贈与時に既に次の三つの根抵当権、即ち、(一) 昭和四二年二月二八日、手形取引契約を原因として、元本極度額二五〇万円、債務者控訴人秀雄、根抵当権者株式会社北陸銀行(以下「北陸銀行」という。)、(二) 昭和四六年一二月二五日、銀行取引契約を原因として、元本極度額一五〇万円、債務者及び根抵当権者は(一)と同じ、(三) 昭和四七年九月八日、極度額一二〇万円、債権の範囲銀行取引、手形債権、小切手債権、債務者及び根抵当権者は(一)と同じ(本件物件4と共同担保)が設定され、その旨の登記がされていたこと、また、本件物件4には、相続開始時に次の三つの根抵当権、即ち、(一) 昭和四七年九月八日、極度額一二〇万円、債権の範囲銀行取引、手形債権、小切手債権、債務者控訴人秀雄、根抵当権者北陸銀行(本件物件3、5ないし11と共同担保)、(二) 昭和五四年一二月二二日、極度額一八〇〇万円、債権の範囲銀行取引、手形債権、小切手債権、債務者及び根抵当権は(一)と同じ(本件物件3、5ないし11と共同担保)、(三) 平成元年一月三〇日、極度額四〇〇〇万円、債権の範囲銀行取引、手形債権、小切手債権、債務者及び根抵当権者は(一)と同じ(本件物件3、5ないし11と共同担保)が設定され、その旨の登記がされていたことが認められる。

(二)  さらに、証拠(乙三一ないし三三、四六、四七の1ないし4、四八)及び弁論の全趣旨によれば、菊五郎は、昭和四六年一二月二五日に、北陸銀行との間で銀行取引約定書及び約定書切替に関する念書を交わして、控訴人秀雄の既往取引を含めた同銀行との一切の取引に関して生じる債務について同控訴人と連帯して債務を負担する旨の根保証契約を締結しており、結局、右の銀行取引約定書による菊五郎の根保証債務の一部が前認定の各根抵当権の被担保債権と対応する関係にあること、菊五郎の死亡時において右銀行取引約定書に基づく菊五郎の北陸銀行に対する連帯保証債務(主債務者控訴人秀雄)は右約定書のみを根拠とすれば一億三九二二万三五九九円、北陸銀行では根保証の場合でも通常は各貸借について更に保証人に格別に保証させているので、それに限ると八九五四万円に達していたこと、菊五郎死亡後の平成三年四月二六日には債権者北陸銀行との間で、昭和四六年一二月二五日に締結された銀行取引契約につき、菊五郎の死亡に伴い、訴外本田好世を菊五郎に代えて保証人とする合意が成立し、菊五郎の保証債務を免除することについて相保証人本田慎一(控訴人)、本田照子も承認していることがそれぞれ認められる。

4(一)  右3(一)認定の各根抵当権については、その極度額を被担保債権額として、共同担保につき前認定の各物件の相続開始時の価額の割合に応じて債権額を割り付けると原判決別表のとおりであり、本件各物件について控除すべき抵当債権額は、本件物件3が七四万六七八六円、同4が四六万七六二九円、同5が一七三万〇三八三円、同6が二六万六九七四円、同7が六七万五四七四円、同8が二六万六九七四円、同9が六六万七五八三円、同10が一二万六六四五円、同11が二〇四万二二〇二円となる。

(二)  次に、菊五郎は、右3(二)認定のとおり相続開始時において北陸銀行に対する根保証契約により八九五四万円ないし一億三九二二万三五九九円の保証債務を負担していた事実が認められるけれども、結局北陸銀行は右債務を免除したものと認められるから、これを被相続人の債務として遺留分算定の基礎となる財産の評価に当たって控除するのは相当でない。

5  以上の検討によれば、遺留分算定の基礎となる財産の評価額は、前記本件物件1ないし11の相続開始時の価額から右4(一)の控除すべき抵当債権額を控除した価額となり、その各物件についての内訳は別紙一覧表のB欄記載のとおりであり、合計額は七〇〇一万二三五〇円となる。被控訴人らの遺留分の額はその二六分の一に当たる二六九万二七八二円となり、本件贈与等が右被控訴人らの遺留分を侵害することは明らかである。

被相続人が債務超過であるから、被控訴人らの遺留分はないとする控訴人らの主張は採用できない。

三  控訴人らの寄与分の主張について

遺留分減殺請求訴訟において寄与分を考慮すべきではないことは、原判決一三枚目表三行目「被告秀雄」から同六行目末尾までの説示のとおりであるから、これを引用する。

四  控訴人らの短期時効取得の可否について

控訴人らの短期時効取得の主張が失当であることは、原判決一三枚目表八行目冒頭から同裏三行目末尾までの説示のとおりであるから、これを引用する。

五  遺留分減殺請求の効果

被控訴人らは、本件遺留分減殺請求により、各自の遺留分(二六九万二七八二円)を保全するのに必要な限度で、まず遺贈について、次いで贈与について新しいものから古い順にその効力を失わせることができることになる(民法一〇三一条、一〇三三条、一〇三五条)。

1  控訴人秀雄が被相続人の遺言により取得した本件物件4については、右遺言の性質をどのように考えるとしても、遺贈又はこれに準じるものとして最初に減殺の対象となる。同物件の評価額は五万二三七一円であるから、その全部を減殺対象とし、被控訴人らはそれぞれ右物件につき持分九分の一ずつ(各五八一九円相当)減殺できる。

2  次いで、本件贈与のうち最も新しい菊五郎の昭和五二年一月一八日に控訴人秀雄、同慎一及び本田ときに対してした本件物件3、5ないし11の持分四分の一ずつの贈与が、右1による減殺後の被控訴人らの遺留分(各二六八万六九六三円)を保全する限度で、各物件の価額割合に応じて減殺されることになる。

その結果、減殺対象となる本件物件3、5ないし11についての持分割合は、原判決別紙計算書一ないし三の計算により、同四記載のとおりとなる。

なお、右各物件について本田ときが贈与により取得した持分は、控訴人慎一が相続により取得したから、被控訴人らは本田ときの取得持分に対応する部分については控訴人慎一に対して右減殺請求の効果を主張できることになる。

六  結論

被控訴人らが本訴において遺留分に基づく減殺請求を原因として控訴人らに対し所有権移転登記を求める各不動産の持分が、右五で検討した本件遺留分減殺請求権により減殺の効果を生じた不動産の持分の範囲内であることは計数上明らかである。したがって、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由があることになる(ただし、登記原因は平成二年一二月二一日遺留分に基づく減殺請求。)。

そうすれば、本件物件3、5ないし11につき被控訴人らの求める範囲以上の減殺請求を認容した原判決は不当であり、右の限度で本件控訴は理由があり、その余については理由がないから、原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。

(別紙)

〈省略〉

(以上)

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